財務指標を使ってニトリHDのビジネスモデルを徹底解説!
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企業分析2024.4.29
この記事では、経営指標を使った企業分析事例についてを、図解を通じてわかりやすく解説します。
今回は「ニトリHD」と「ウエルシアHD」の2つの会社を、指標を比べながら解説します。
記事を通じて、分析力やビジネスリテラシーを身に付けましょう。
目次
- ステップ①事業内容の把握
- ニトリHDの事業内容と特徴
- 製造小売業(SPA)とは
- ウエルシアHDの事業内容と特徴
- 会計クイズ:問題
- ヒント:両者の比例縮尺財務諸表
- 会計クイズ:正解の発表
- 両者の共通点と相違点
- ステップ②収益性を把握する
- ニトリHDのビジネスモデル
- ウエルシアHDのビジネスモデル
- 利益率の高いニトリHD
- ステップ③効率性を把握する
- 店舗の大きさ
- 資産の規模を比較する
- 商品の購入頻度の違い
- 両者の棚卸資産回転率
- ニトリHDの棚卸資産回転率が高い理由
- ステップ④レバレッジを把握する
- レバレッジの計算式
- 自己資本比率を比べる
- ニトリHDの自己資本比率が高い理由
- 連結財務諸表の関係性
- ニトリHDの自己資本比率
- 【補足】36期連続増収増益は可能か?
- 企業分析のまとめ
ステップ①事業内容の把握
まずは、今回の登場企業の紹介です。
- ニトリHD(家具の製造小売)
- ウエルシアHD(ドラッグストア)
両者ともに小売業を展開している企業です。しかし、販売商品やビジネスモデルは大きく異なります。
ニトリHDの事業内容と特徴
ニトリHDは、家具やインテリア用品の製造販売を行っている会社です。
「お、ねだん以上」で有名な家具チェーン店を郊外を中心に全国展開しています。
製造小売業(SPA)とは
ニトリHDは製造小売業、通称「SPAモデル」を採用しています。
SPAモデルとは、企画・デザイン・製造から販売までを自社で保有し、サプライチェーンの全体最適を図るモデルです。
SPAモデルを採用するメリットとして、コストの削減や顧客の声を商品に反映することが可能である点などが挙げられます。
一方、デメリットとして、設備保有等に伴い多額の資金が必要となることや、管理する範囲が広大になります。
ウエルシアHDの事業内容と特徴
ウエルシアHDは、調剤薬局併設型ドラッグストアチェーンを全国各地で運営している会社です。
ROEとは
さて、今回はこの両者の収益性を比較します。収益性を比較する上で「ROE」という指標を使用します。
ROEとは、「Return On Equity」の略で株主の所有分である自己資本に対する純利益の割合を表す指標です。
この指標が高いほど株主にとっての収益性が高いと判断できます。
ROEは収益性、効率性、レバレッジに分解することができ、各数値の変化によってROEが変化します。
これを「デュポンシステム(デュポン分解)」と言います。
ROEについて詳しく学びたい方は、下記の記事を先に御覧ください。
関連記事
ROEとは?計算式や目安、ROAとの違いを分かりやすく解説
navi.funda.jp/article/roe
会計クイズ:問題
それでは、以上を踏まえて簡単なクイズです。
家具チェーン店でお馴染みのニトリHDのROEはどちらでしょう?
両者のビジネスモデルがどのように利益率、回転率、財務レバレッジに影響するのかを予想して考えてみてください。
タップで回答を見ることができます
選択肢①
選択肢②
ヒント:両者の比例縮尺財務諸表
今回は難易度が高いためヒントとして両者の比例縮尺財務諸表を紹介します。
選択肢①は貸借対照表が大きい一方で、選択肢②は損益計算書の方が大きくなっています。
下の図のヒントも考慮してぜひ考えてみて下さい。
わかりましたか?
会計クイズ:正解の発表
正解は選択肢①がニトリHDのROEでした。
お付き合い頂き、ありがとうございます。
それではここから解説です。
ROEの構成要素である収益性・効率性・レバレッジの各要素について、ビジネスモデルの違いがどのように現れるかを考えていきましょう。
両者の共通点と相違点
両者ともに小売業を展開していますが、家具を扱うニトリHDはSPAモデルを採用している一方で、薬や日用品を扱うウエルシアHDは仕入販売モデルを採用しています。
ステップ②収益性を把握する
それでは両者のROEを分解していき、それぞれのビジネスの特徴を明らかにしていきます。
はじめに、ROEの構成要素である利益率についてをビジネスモデルを比べながら解説します。
ニトリHDのビジネスモデル
ニトリHDのビジネスモデルは、製品の企画から製造、小売までを自社で手掛けるSPAモデルです。
このビジネスモデルを採用することで、無駄なコストを削減し、高品質の商品を低価格で販売することが可能となります。
加えて、自社で物流網を所有することで配送効率を高めやすく、スピーディーに倉庫・店舗間の輸送が可能となります。
売場販売効率や労働生産性など、徹底した経営管理を行い、利益率の改善に努めています。
ニトリHDの決算説明会資料では、投資家向けに経営管理の達成具合を〇✕で開示していることも有名です。
ウエルシアHDのビジネスモデル
ウエルシアHDのビジネスモデルは、商品を仕入れて販売する一般的な小売業のモデルです。
商品の仕入価格にはメーカーや卸業者等の利益(中間マージン)が上乗せされるため、原価の改善には限界があります。
利益率の高いニトリHD
両者の損益計算書を見ると、製造から販売までを一貫してコントロールできるニトリHDの方が営業利益率が高いことが分かります。
営業利益率で大きな差がついていることから、ROEの構成要素である売上高当期純利益率にも大きな差が現れます。
まずはビジネスモデルから読み取る収益性の比較でした。
収益性について詳しく学びたい方は下記の記事にて解説しています。
関連記事
損益計算書とは?決算書の読み方を企業分析のプロがわかりやすく解説
navi.funda.jp/article/profit-and-loss-statement
ステップ③効率性を把握する
次は、ROEの構成要素である、事業の効率性について見ていきます。
先ほど説明した通り、ニトリHDとウエルシアHDは販売商品が異なります。
店舗の大きさ
小売ビジネスの効率性を比較するため、まず両者の店舗に着目して見ていきます。
ニトリHDは、薬や化粧品と比べてサイズが大きい家具を展示・保管する必要があり、大型店舗を中心に出店しています。
一方、ウエルシアHDは、商品サイズが小さくニトリのような大型店舗は不要です。モール内などで賃借物件も多数あります。
それを踏まえて両者の貸借対照表を確認すると、店舗が大きいニトリHDの方が総資産に占める有形固定資産の割合が高いことが分かります。
ニトリHDは店舗以外にも、物流や製造に関する設備を有していますが、店舗に関する資産を多額に保有していることは間違いありません。
資産の規模を比較する
両者の比例縮尺財務諸表でさらに深く見ていきましょう。
両者の売上高は規模が近いものの、総資産の規模には大きな差があります。
従って効率的に売上高を生み出す総資産回転率に差が現れます。
- 総資産回転率は効率性の指標
- 計算式は(売上高÷総資産)で算出
- 数値が高いほど、効率性も高くなる
ニトリHDは固定資産を多額に保有するビジネスであり、総資産回転率が低くなります。
一方、ウエルシアHDは、ニトリHDほど多額な設備が必要無いため、総資産回転率は高くなります。
総資産回転率を詳しく学びたい方は下記の記事がおすすめです。
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総資産回転率とは?資産の効率性を示す指標をわかりやすく解説
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商品の購入頻度の違い
次に、商品の購入頻度について解説します。
ニトリHDが扱う家具類は長期間使用するため、購入頻度が低くなります。
一方、ウエルシアHDが扱う化粧品や日用品は消耗品のため、購入頻度が高くなります。
したがって、家具を扱うニトリHDのほうが棚卸資産を捌くスピードが遅いと予想できます。
用語解説:棚卸資産回転率とは
ここで棚卸資産回転率について解説します。
棚卸資産回転率とは、棚卸資産が1年間に平均何回転するかを表すもので、効率よく棚卸資産を販売できているかを見るための指標です。
この指標が高いほど経営の効率が高いと判断できます。
両者の棚卸資産回転率
それを踏まえて両者の棚卸資産回転率を見ていきましょう。
購入頻度の低い家具を販売するニトリHDの方が棚卸資産回転率が高くなっています。
同業他社である大塚家具と比較すると、ニトリHDの棚卸資産回転率の高さが目立ちます。
ニトリHDの棚卸資産回転率が高い理由
ニトリHDの棚卸資産回転率が高い理由として以下の2つがあります。
- 独自の物流システム
- 在庫の一元管理
先ほど説明したように、ニトリHDは独自の物流システムを所有することで、スピーディーに倉庫・店舗間の輸送を行っています。
また、物流施設内に商品を搬送する無人搬送ロボットやアシストマシーンなどにも積極的に投資しています。
作業員の肉体的な負担軽減と作業効率のアップ・時短を図っています。
さらに、ニトリHDでは店頭の在庫と物流センターの在庫をリアルタイムで一元管理しています。
その結果、ネット注文商品の最寄り店舗受け取りや、店舗購入品の自宅配送など、顧客のニーズに合わせたデリバリーを行うことが可能となります。
以上の理由から、家具という購買頻度が低い商品を効率的に販売する仕組みを読み取ることができます。
棚卸資産回転期間について、詳しく学びたい方は下記の記事がおすすめです。
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棚卸資産回転期間とは?計算式や業界別の目安をわかりやすく解説
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ステップ④レバレッジを把握する
最後に負債の利用度を意味するレバレッジについて解説します。
レバレッジの計算式
まず、レバレッジとは総資産が自己資本(純資産)の何倍であるかを表す指標です。
計算式は、総資産÷自己資本で求めることができます。
この指標を使うことで、企業の負債の利用度が分かります。
財務レバレッジについて詳しく学びたい方は下記の記事がおすすめです。
今回は、理解のしやすさを考慮して、財務レバレッジとほぼ同じ意味を表す自己資本比率をベースに両者の数値を見ていきます。
自己資本比率を比べる
両者の自己資本比率を確認すると、ニトリHDの方が自己資本比率が高いことが分かります。
ニトリHDの自己資本比率が高い理由
ニトリHDの自己資本比率が高い理由は、利益率が高く、最終的に多くの利益を残すことができることに起因します。
連結財務諸表の関係性
損益計算書と貸借対照表には、損益計算書の純利益が貸借対照表の純資産(正確には利益剰余金)に計上されるという関係があります。
踏まえて、ニトリHDの業績推移を見ると、35期連続で増収増益を達成しており、多くの利益が純資産に積み上がっていることが想像できます。
ニトリHDの自己資本比率
高収益ビジネス、かつ長期にわたる増収増益により利益剰余金が積みあがっていった結果、ニトリHDの自己資本比率は非常に高くなります。
【補足】36期連続増収増益は可能か?
ここからはニトリHDが36期連続増収増益が可能か考察していきます。
2023年3月期の中間決算時点では、「増収減益」という結果になっています。
減益の理由としては、急激に進む円安とエネルギー価格高騰によってコストが増加しており、売上総利益率(粗利益率)が低下しているためです。
ニトリHDは扱う品目数の90%以上を海外から調達しており、円安が進むとコストが増えやすい性質を持っています。
ニトリHDでは2022年9月までは為替予約(為替変動の影響を受けないよう、企業が外国通貨を購入するための為替レートを予約する取引)をしていますが、それ以降は為替予約がないため、下期に円安が進んだ場合はさらなるコスト増加となります。
ニトリHDのコスト増加要因には円安やエネルギー価格の高騰など外部要因が絡んでいます。
内部の経営改善の努力はもちろん必要ですが、36期連続増収増益ができるかは外部要因にもかかっているでしょう。
以上、負債の利用度を自己資本比率から確認しました。
自己資本比率について学びたい方は下記の記事がおすすめです。
企業分析のまとめ
最後に今回の記事のまとめです。
ニトリHDとウエルシアHDはどちらもROE12%台の小売業ですが、ビジネスモデルの違いによって、ROEを構成する収益性や効率性、レバレッジに差が生まれています。
ROEデュポン分解からビジネスモデルの違いが読み取れる事例でした。
以上、今回のクイズの正解は、選択肢①がニトリHDでした。
お付き合いいただきありがとうございました。
決算書や企業のビジネスについて少しでも興味を持っていただけましたら幸いです。
決算書の読み方を基礎から学びたい方は下記の記事もおすすめです。
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<この分析記事の出典データ>