コトラーの「競争地位別戦略」とは?4つの分類を企業事例と共に解説
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企業分析2024.8.15
競争地位別戦略とは?
競争地位別戦略は、アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏が提唱した競争戦略論です。マーケットシェアの観点から、企業を「リーダー」「チャレンジャー」「ニッチャー」「フォロワー」の4つ分類し、競争地位に応じた戦略を提示しています。
- リーダー
- チャレンジャー
- ニッチャー
- フォロワー
この記事では、競争地位別戦略の4つの分類を企業事例を用いてわかりやすく解説します。記事の最後に、生成AIを活用した実践方法も紹介しますので、ぜひ最後まで読んでいただけますと幸いです。
リーダー
リーダーとは、市場シェアがトップの企業を指します。市場全体をリードする立場にあり、質・量ともに最大の経営資源を保有している特徴があります。
具体的な企業例としては、コンビニ業界のセブンイレブンや自動車業界のトヨタなどが挙げられます。
リーダー企業の基本的な戦略は、主に4つあります。
- 市場拡大戦略
- 市場シェア防衛戦略
- コスト効率化戦略
- ブランド強化戦略
それぞれ詳しく解説していきます。
市場拡大戦略
1つ目は、市場拡大戦略です。市場規模を拡大することで、リーダー企業は市場シェアの獲得につながり、競争優位性を確立することができます。
具体的な戦略として、
- 新規顧客の開拓
- 既存顧客の利用頻度向上
- 新しい用途の提案
などがあります。
例えば、セブンイレブンは、ある地域の商圏に複数の店舗を出店し、その地域の商圏を占領するドミナント戦略を実践し、市場シェアを拡大させています。
市場シェア防衛戦略
2つ目は、市場シェア防衛戦略です。リーダー企業は、自社の市場シェアを守るために、競合他社の戦略に対抗する必要があります。
具体的には、
- 継続的なイノベーション
- 製品ラインの拡充
- 流通チャネルの強化
などを行うことにより、市場シェアを守ります。
例えば、セブンイレブンは商品のリニューアルや新商品の開発などを行っています。また、セルフレジの導入や銀行ATMなどを設置して利便性を上げています。
コスト効率化戦略
3つ目は、コスト効率化戦略です。コスト効率化戦略とは、運営コストを削減し、利益率を向上させることを目的とします。
具体的には、
- 規模の経済を活かした生産効率の向上
- サプライチェーンの最適化
などを行うことにより、経営コストを削減します。
例えば、セブンイレブンの店舗は特定地域に密集しているため、店舗間の距離が近くなり、配送費用を削減することができます。
ブランド強化戦略
4つ目は、ブランド強化戦略です。自社のブランドを強化することで、顧客の信頼が高まり、リピートにつながります。また、ブランドがあれば値下げをしなくても購入してもらえるため、価格競争に巻き込まれないメリットを享受できます。
例えば、セブンイレブンのプライベートブランドである「セブンプレミアム」は、高品質でありながら手頃な価格で提供されており、消費者からの高い評価を得ています。
チャレンジャー
チャレンジャーとは、業界2・3番手の市場シェアを占める企業を指します。リーダー企業に挑戦し、業界トップの座を狙います。
具体的な企業例としては、コンビニ業界のローソンや自動車業界のホンダなどが挙げられます。
チャレンジャー企業は、リーダー企業がまだ力を入れていない分野に注力し、差別化戦略を実行します。
例えば、ローソンは「ナチュラルローソン」や「ローソン100」などの店舗形態の差別化を図り、コンビニの商品は体に良くないという印象を払拭しました。また、商品の中でもスイーツの分野に注力しており、コンビニで美味しいスイーツが食べられるという強みを売りにしています。
ニッチャー
ニッチャーとは、業界市場のシェアはあまり高くないですが、特定の市場セグメントで強い地位を得ている企業を指します。
具体的な企業例としては、コンビニ業界のセイコーマートや自動車業界のスズキなどが挙げられます。
ニッチャー企業は、ターゲット層を絞ったり、特定の製品や地域へ集中したりなど、ニッチな領域で特化する集中戦略を取ります。
例えば、セイコーマートは北海道を中心に店舗を展開しています。同じくコンビニ業界のニッチャー企業であるポプラは、中国地方を中心に店舗展開を行っています。
フォロワー
フォロワーとは、市場シェアが高くなく、経営資源の量も質も他社に劣る企業のことを指します。他の3つと違って、独自の強みを持たない特徴があります。
具体的な企業例としては、コンビニ業界のミニストップや自動車業界のマツダなどが挙げられます。
フォロワー企業は、多くの経営資源を有していないため、リーダー企業などの戦略を真似る模倣戦略を実践します。
例えば、ミニストップは他の大手コンビニチェーンと同様の立地戦略や商品・サービスの提供を行っています。
戦略選択のポイントとは?
企業が成功するためには、どのような戦略を取るのかが非常に重要です。ここからは戦略選択の3つのポイントについて解説します。
- 自社の立場を知る
- 環境の変化に応じて戦略を変える
- 事業ごとに戦略が異なることがある
自社の立場を知る
まず大切なのは、自分の会社が市場でどんな立場にいるのかをしっかり理解することです。例えば、
- 市場でトップの会社なのか?
- 2番手や3番手として頑張っている会社なのか?
- 特定の分野で強い会社なのか?
これらを正確に知ることで、自社に合った戦略を選ぶことができます。
環境の変化に応じて戦略を変える
ビジネスの世界では、新技術が登場したり、顧客の好みが変わったり、新しいライバル会社が現れたりなど、常に環境が変化します。こういった変化に合わせて、戦略も変えていく必要があります。最初に選んだ戦略にこだわりすぎず、柔軟に対応することが大切です。
事業ごとに戦略が異なることがある
大企業などでは、複数の事業を行ってることが多いです。その場合、事業ごとに戦略が異なることがあります。
具体例として、自動車業界のトヨタとホンダを見てみましょう。
トヨタの事例
トヨタ自動車は、普通乗用車市場においてリーダーの地位にいます。しかし、高級車市場では、メルセデス・ベンツがリーダー企業に位置しており、トヨタはレクサスブランドで勝負をするチャレンジャーの立場にあります。
ホンダの事例
ホンダは、四輪車市場においてトヨタに挑戦するチャレンジャー企業です。しかし、二輪車市場では、市場シェアが世界トップであり、リーダーの地位にいます。
このように、複数の事業を行っている企業は事業ごとに戦略が異なることが多いため、戦略を選択する際は事業単位で考えることが大切です。
コトラーの競争地位別戦略とポーターの3つの基本戦略の比較
コトラー氏が提唱した競争地位別戦略と似ている競争論に、ハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏が提唱した3つの基本戦略というものがあります。
3つの基本戦略とは、「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」と呼ばれ、企業が競争に打ち勝って利益を上げるための戦略はこの3つしかないと主張しました。
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
3つの基本戦略については、下記の記事で詳しく解説しています。
本記事とあわせてぜひご覧ください。
関連記事
【図解】コストリーダーシップ戦略とは?企業事例を用いて解説
navi.funda.jp/article/cost-leadership-strategy
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【図解】差別化戦略とは?企業事例を用いてわかりやすく解説
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【図解】集中戦略とは?企業事例を用いてわかりやすく解説
navi.funda.jp/article/focused-strategy
コトラー氏とポーター氏の戦略理論は、企業が市場でどのように競争すべきかを考える上で非常に重要です。しかし、両者の理論は異なる視点から企業の戦略を捉えています。
ここからは、両者の違いについて簡単に説明していきます。
①戦略の焦点
競争地位別戦略では、「自社が市場でどの位置にいるか」に注目します。例えば、市場でトップの企業はリーダーに当てはまるため、その地位を活かした戦略を取ります。
一方、3つの基本戦略では、「どうやって他社と差をつけるか」に注目します。具体的には、低価格で勝負するか(コストリーダーシップ戦略)、他社にはない付加価値をつけて勝負するか(差別化戦略)を考えます。
②競争優位性の源泉
競争地位別戦略では、市場でのシェアの大きさや、会社の持つ資金や技術力などの経営資源が競争するうえで重要であると考えます。
一方、3つの基本戦略では、コストを下げるノウハウ(コストリーダーシップ戦略)や、他社にない特別な製品を作る力(差別化戦略)などが重要であると考えます。
③市場の範囲
競争地位別戦略では、会社の地位によって、市場全体を相手にするか、特定の顧客層だけを相手にするかが変わると考えます。
一方、3つの基本戦略では、会社の地位に関わらず、幅広い顧客を相手にするか、特定の顧客層に集中するかを戦略的に選択すると考えます。
④戦略の種類
競争地位別戦略では、市場での地位に応じて、市場を大きくする、シェアを守る、コストを下げる、ブランドを強くするなど、様々な戦略があると考えます。
一方、3つの基本戦略では、コストを下げて安く売る(コストリーダーシップ戦略)、特別な価値を提供して高く売る(差別化戦略)、特定の市場に集中する(集中戦略)の3つしかないと考えます。
スターバックスの事例
両者の理論は、それぞれ異なる視点から企業の戦略を考えるものですが、実際のビジネスでは両方の考え方を組み合わせて使うことが重要となります。
今回は喫茶店業界で有名なスターバックスを事例に、両理論のレンズを通して分析してみましょう。
コトラー氏の競争地位別戦略
スターバックスは、喫茶店業界で圧倒的な市場シェアを持つリーダー企業です。経営資源を豊富に持つリーダーの地位を活かし、世界86市場に38,038店舗を展開し市場拡大戦略を行っています。また、高品質なコーヒーや高級感のある店舗の内装で、ブランド強化戦略を実践しています。
ポーター氏の3つの基本戦略
また、スターバックスは単にコーヒーを売るのではなく、「サードプレイス(家庭と職場に次ぐ第三の居場所)」という概念を打ち出し、くつろぎの空間を提供することで差別化を図っています。これは、ポーター氏が提唱した差別化戦略と言っていいでしょう。
スターバックスの事例は、コトラー氏とポーター氏の理論が相互補完的に機能し得ることを示しています。市場リーダーとしての地位を維持するために、差別化の面で優位性を確立しているのです。
生成AIを活用した競争地位別戦略の実践方法
生成AIを活用した競争地位別戦略の実践方法を企業事例を用いて解説します。今回は、「Chat GPT」を使って、競争地位別戦略の観点からマクドナルドを分析していきます。
ステップ1:対象企業の競争地位を推定
はじめに、分析する企業の競争地位を推定します。また、このステップでは、以下の4項目も把握しておきましょう。
- 企業の概要
- 業界全体の動向
- 業界の主要プレイヤー
- 対象企業の相対的な位置づけ
以下は、生成AIのプロンプト例です。
以下の公開情報に基づいて、[企業名]の競争地位(リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワー)を推定し、その理由を説明してください。 また、この推定に使用できる追加の公開情報があれば、それも提案してください。
その際に、以下の項目についても解説してください。
それでは、実際にマクドナルドの競争地位を分析してもらいましょう。まずは上記のプロンプトに沿って企業名などを入力していきます。公開情報に関しては、企業の決算書情報を貼ると良いでしょう。今回は海外の企業であるマクドナルドを扱うため、マクドナルドのForm10-Kを貼ります。
Form10-Kとは、米国証券取引委員会(SEC)に提出される年次報告書で、公開企業が法的に提出を義務付けられている書類の1つです。米国版の有価証券報告書とも言えます。
Form10-Kの読み方について詳しく知りたい方は、下記の記事がおすすめです。
関連記事
Form10-Kとは?米国企業の決算書の読み方を企業事例で解説
navi.funda.jp/article/how-to-read-form10-k
文章を入力し、公開情報を貼ったら、送信ボタンを押します。
すると、Chat GPTがマクドナルドの競争地位や企業情報を解説してくれます。これによって、マクドナルドがファストフード業界の「リーダー」として位置付けられていることが分かります。
ステップ2:競争地位に応じた戦略オプションの生成
次に、競争地位に応じた戦略オプションを生成します。
以下は、生成AIのプロンプト例です。
[企業名]は[業界名]において[推定した競争地位]の位置にあると推定されます。この競争地位に基づき、以下の点を考慮した具体的な戦略オプションを3つ提案してください。 各戦略オプションについて、以下の点を説明してください:
ステップ1を踏まえて、マクドナルドの戦略オプションを生成してもらいましょう。まずは、先ほどと同様に上記のプロンプトに沿って入力欄を埋めていき、すべての入力が終わったら送信ボタンを押します。
Chat GPTにプロンプトを入力すると、マクドナルドがリーダーの地位を活かして実践すべき戦略オプションとその詳細について教えてくれます。
- ①デジタルオーダーとデリバリーの拡充
- ②ヘルシー&サステナブルメニューの拡充
- ③グローバル市場での地域適応戦略
ステップ3:選択した戦略の実行計画立案
戦略オプションのうち、選択した戦略の実行計画を立案してもらいます。
以下は、生成AIのプロンプト例です。
[選択した戦略オプション]を[企業名]が実行すると仮定して、以下の点を含む実行計画を立案してください: なお、この計画は外部者の視点に基づくものであり、実際の内部状況とは異なる可能性がある点に留意してください。
今回は、戦略オプション②の「ヘルシー&サステナブルメニューの拡充」の実行計画を立案してもらいましょう。上記のプロンプトに、選択した戦略オプションと企業名を入力し、送信ボタンを押します。
Chat GPTに打ち込むと、「ヘルシー&サステナブルメニューの拡充」を実行するために必要なアクションやタイムライン、必要なリソースなどについて説明してくれます。
ステップ4:競合分析と差別化要因の特定
戦略の実行計画を立案したら、競合分析と差別化要因の特定を行います。
以下は、生成AIのプロンプト例です。
[業界名]における[企業名]と主要競合他社([競合社名1]、[競合社名2])の公開情報に基づいて、以下の分析を行ってください:
SWOT分析とは、内部環境を強みと弱み、外部環境を機会、脅威にわけることでさまざまな環境変化に対応する戦略を立案するためのフレームワークです。
SWOT分析のSWOTとは、「Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)」の頭文字を取ったものをいいます。
SWOT分析の詳細については、下記の記事で詳しく解説しています。
関連記事
SWOT分析とは?自社の現状を把握するためのフレームワークを解説
navi.funda.jp/article/swot-analysis
競合社名に関して、今回はステップ1の「主要プレイヤー」で出力されたバーガーキングとウェンディーズを選択します。企業名や業界名の入力と同時に、2社のForm10-Kも貼りましょう。
Chat GPTに入力し送信ボタンを押すと、マクドナルドの競合分析と差別化要因の特定を出力してくれます。マクドナルドが差別化すべき戦略はデジタル技術の強化と健康志向メニューの拡充であることが分かりますね。
- デジタルとモバイルのさらなる強化
- 健康志向メニューの拡充
ステップ5:仮想的な戦略実行とモニタリング計画
最後に、戦略を実行した際のシナリオとモニタリング計画を生成します。
以下は、生成AIのプロンプト例です。
[企業名]が[選択した戦略]を実行すると仮定して、以下の要素を含む仮想的なモニタリング計画を設計してください: また、この戦略を1年間実行した場合の、楽観的シナリオと悲観的シナリオをそれぞれ簡潔に説明してください。
最後に、マクドナルドが健康志向メニューの拡充戦略を実行した際のシナリオと、その後のモニタリング計画を生成してもらいましょう。
Chat GPTに打ち込むと、主要KPIや目標値、楽観的シナリオと悲観的シナリオなどについて教えてくれます。これによって、マクドナルドがリーダーの地位を活かして戦略を行った場合のシナリオやモニタリング計画を把握することが可能です。
ぜひ、生成AIを用いて気になる企業の競争地位別戦略を分析してみてください。
生成AIを用いる際の注意点
生成AIを用いる際は注意点があります。それは情報の精度が完璧ではない点です。
今回用いたChat GPTは間違った情報も出力する可能性があります。そのため、生成AIを用いる際は、出力された情報が合っているかを自身の知識や一次情報を通じて確認することが必要になってきます。
生成AIは便利ですが、すべてが正しいというわけではありません。人間の知識と判断で補完して、上手に活用するようにしましょう。
まとめ
最後にまとめです。
今回は、コトラー氏が提唱した競争地位別戦略の4つの分類を企業事例を用いてわかりやすく解説しました。この競争論は企業が自社の市場ポジションを理解し、それに適した戦略を立案する上で非常に有用なフレームワークです。
しかし、競争地位別戦略はあくまでも出発点であり、各企業は自社の独自の状況や能力、市場環境を踏まえて、フレームワークを柔軟に適用し、独自の戦略を構築していく必要があります。また、市場環境の変化や技術革新によって、競争地位自体が変動する可能性もあるため、常に市場動向を注視し、必要に応じて戦略を見直すことも重要です。
経営戦略の策定は、このようなフレームワークを理解した上で、自社の強みや弱み、市場機会、脅威などを総合的に分析し、最適な選択を行うプロセスです。経営戦略を考える際は、本記事で紹介した競争地位別戦略の考え方をしっかり押さえてきましょう。