Form10-Kとは?米国企業の決算書の読み方を企業事例で解説
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会計2024.5.7
この記事では、米国企業の決算書の読み方についてを図解を通じてわかりやすく解説します。
実際の企業事例を交えながら解説していますので、海外の決算書が読めないという方はぜひ参考にしてみてください。
Form10-Kとは?
Form 10-Kとは、米国証券取引委員会(SEC)に提出される年次報告書で、公開企業が法的に提出を義務付けられている書類の1つです。この報告書は、企業の包括的な財務状況、運営の結果、リスク、市場に関する情報を詳細に開示することを目的としています。
そのため、Form10-Kは米国版の有価証券報告書とも言えます。
Form 10-Kに記載される情報
Form10-Kには、企業の業績のみならず、様々な企業情報が開示されます。具体的には下記の内容です。
- 事業概要: 企業がどのような事業を行っているか、その主要製品やサービスについて記載されています。
- リスク要因: 企業の事業や財務に影響を与える可能性のあるリスクについて説明します。
- 選択的財務データ: 過去数年間の要約された財務データを提供します。
- 経営の議論と分析(MD&A): 経営陣による過去の業績と財務状況の解説、将来の見通しなどが含まれます。
- 財務諸表: 収益報告書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの詳細な財務諸表です。
- 監査人の報告書: 会社の財務諸表が適切に表現されているかどうかを監査人が評価した報告書。
Form10-Kは、投資家や市場の参加者に対して、企業の財務的健全性と運営成績に関する透明性を提供することが目的となっています。従って、Form10-Kを読むことで企業情報を漏れなく把握することが可能です。
Form10-Kの特徴
日本の有価証券報告書と同じように、Form10-Kは監査法人の監査を受けてから開示されます。そのため、Form10-Kが開示されるのは、会計年度末から起算して60~90日以内とされています。
また、有価証券報告書と同じでフォーマットが決まっています。
全体の構造については、後ほど詳しく解説します。
アニュアルレポートとの違い
Form10-Kと混同しやすい資料に、アニュアルレポートというものがあります。
アニュアルレポートとは、投資家や金融機関などの利害関係者に対して、情報開示を目的として作成される資料です。
カラー写真やグラフなどの記載があり、Form10-Kと比べてビジュアルが多用される傾向があります。
Form 10-Kは、法的に必須であり、SECに提出しなければなりません。従って、詳細なフォーマットと開示要件が定められています。
一方、アニュアルレポートは法的な要件はなく、企業が自主的に作成することができます。形式や内容は企業が決めることができるため、ビジュアル(写真やグラフィック)を多用して、より一般的な読者にアピールする内容となっているものも少なくありません。
要約すると、Form 10-Kは法的に必須で、非常に詳細な財務情報を含む公式文書であり、アニュアルレポートはより一般的な読者を対象とした、企業の成果や戦略を紹介するより読みやすい報告書です。
Form10-Kが入手できる場所
Form10-Kが入手できる場所は主に2つあります。
1つ目は、日本の有価証券報告書と同じように企業のIRページで入手する方法です。ここでは、Form10-Kの他に、四半期決算資料であるForm10-Qも入手できます。
2つ目は、SECが提供するEDGARというサイトから入手する方法です。
SECとは
SECとは、「Securities and Exchange Commission」の略で、日本語では「証券取引委員会」と呼ばれます。株式や債券などの取引を監督・監視する役割を果たし、上場企業からForm10-Kなどの決算書を受け取っています。
EDGARとは
EDGARとは、「Electronic Data Gathering, Analysis, and Retrieval system」の略で、SECへ提出が義務付けられている書類(Form10-Kなど)を提出・開示する電子システムです。Form10-Kなどの決算書を探す際に役立つもので、誰でも無料で利用できます。
Form10-Kを入手する手順
企業のIRページからForm10-Kを入手する手順について説明します。
- Googleで検索する
- 検索結果のIRページをクリック
- 「SEC Filing」を探す
- 書類を指定する
- 見たい書類をクリック
順にみていきましょう。
手順①:Googleで検索する
まずは、Googleで調べたい企業の「企業名」と「IR」を入力して検索します。
手順②:検索結果のIRページをクリック
検索結果が表示されたら、その中にある「Investor Relations」と書かれたページをクリックします。基本的に一番上に出てくることが多いです。
手順③:「SEC Filing」を探す
企業のIRページが表示されたら、決算書が格納されている「SEC Filing」をクリックします。
手順④:書類を指定する
「SEC Filing」を開いたら画面左上にある「SEC Groupings」をクリックし、「Annual Filings」を選択します。
手順⑤:見たい書類をクリック
「Annual Filings」を開くと、Form10-Kが表示されるため、見たい年の資料をクリックします。
基本的に最新版の資料が上から順に表示されます。また、PDFで開きたい場合は右側の「PDF」をクリックしましょう。
Form10-Kの構成
Form10-Kの構成は4つのパートに分かれています。
それぞれの内容は以下の通りです。
- Part1:会社概要
- Part2:財務情報
- Part3:内部関連情報
- Part4:詳細資料
1つずつ見ていきましょう。
Part1:会社概要
Part1では、企業の事業に関する概要が記載されており、以下の6つの項目で構成されています。
- Item1:ビジネス
- Item1A:リスクの情報
- Item1B:SECからの指摘のうち未解決の事案
- Item2:設備情報
- Item3:重大な訴訟事案
- Item4:将来に策定される規定に関する事項
Part2:財務情報
Part2では、財務数値に関する重要な情報が中心に記載されており、以下の9つの項目で構成されています。
- Item5:株式関連の情報
- Item6:主要な財務数値
- Item7:業務実績の開示
- Item7A:マーケット情報
- Item8:各種財務情報の開示
- Item9:会計事務所の変更
- Item9A:開示管理と手順
- Item9B:その他の情報
Item8:各種財務情報の開示
Item8には、財務情報が掲載されています。
具体的には、各種財務諸表3年分の開示と注記情報が記載されています。
Item8では以下の8つの書類を見ることができます。
- 連結損益計算書
- 連結包括利益計算書
- 連結貸借対照表
- 連結株主資本等変動計算書
- 連結キャッシュ・フロー計算書
- 注記事項(セグメント情報)
- 主要な四半期財務情報
- 会計事務所からの報告書
Part3:内部関連情報
Part3では、企業の内部に関する情報が記載されており、以下の5つの項目で構成されています。
- Item10:コーポレートガバナンス
- Item11:役員報酬
- Item12:保有株式に関する情報
- Item13:企業との特定の関係及び取引に関する情報
- Item14:会計事務所への手数料
Part4:詳細資料
Part4では、その他の詳細な資料が記載されており、以下の2つの項目で構成されています。
- Item15:補助資料
- Item16:Form10-Kの要約
企業事例を用いてForm10-Kの読み方を解説
それでは、実際の企業事例を用いてForm10-Kの読み方を解説します。
企業分析をしたいときは「Part1」と「Part2」を中心に見ていきます。
Form10-Kを読む際は全てに目を通す必要はありません。
Part1はItem1、Item1A、Item2、Item3を読めばOKです。
Part2も全てを読む必要はなくItem7、Item8を読めば十分です。
今回は、iPhoneで有名な「Apple」を事例にForm10-Kの読み方を紹介します。
Appleのビジネスモデル
AppleのItem1を見ると、「iPhone」や「Mac」、「iPad」などの商品を製造販売している会社であることが分かります。
Appleはプロダクトだけでなく、「クラウドサービス」や「Apple Store」等の関連サービスも展開しています。
このことから、AppleはiPhone等の商品を売って終わりではなく、売った後も関連サービスを提供して利益を出すビジネスモデルであることが読み取れます。
iPhoneなどのプロダクトは、複数のチャネルで販売されています。
Apple StoreやAppleのオンラインストアでの直接販売が全体の38%、携帯キャリアや家電量販店などの間接販売が全体の62%となっています。
また、Appleの特徴として売上高と利益率がQ1(10月~12月)に大きくなる傾向があります。
Form10-Kによると、これはクリスマスや年末が含まれており、Apple製品の需要が高まることが要因です。
さらに、その時期に向けて新製品を投入することも要因として考えられます。
Appleのリスク情報
Item1Aのリスクの情報を見ると、コロナの影響におけるリスクや通信事業者・小売業などの業績に依存しているリスクなどがあると記載されています。
また、Appleはファブレス企業という特徴があります。
ファブレスとは、ハードウェアの製造や輸送、物流管理を外部企業に委託するビジネスモデルのことをいいます。
商品の質と量を外部に依存しているため、悪影響を及ぼすリスクが伴います。
もう1つ特徴的なビジネスモデルにレベニューシェアがあります。
Appleは、アプリ開発者と協業してApple Storeを作り上げ、アプリ課金によって得られた収益を両者で分け合うレベニューシェアモデルを採用しています。
そのため、アプリ開発者であるサードパーティの開発に依存するリスクがあります。
Appleの設備情報
Item2の設備情報には、本社がカリフォルニア州にあり、米国内外に研究開発、データセンター、小売りを目的とした施設及び土地を所有していることが記載されています。
Appleの訴訟事案
Item3の訴訟事案に関する情報を見ると、主な訴訟事案として、Epic社がAppleに対して訴訟を起こし、それに対してAppleが反訴したことが書かれています。
Appleの財務数値
次に、Part2の財務情報を確認してみましょう。
Item7の製品別の売上高を見ると、売上の大半をプロダクト販売が占めていることが分かります。
- iPhone:52%
- Mac:10%
- iPad:8%
- Apple Watch等のウェアラブル製品やアクセサリーなど:10%
- 関連サービス:20%
地域別の売上高も開示しており、アメリカでの販売が全体の約43%を占めています。
製品・サービスの売上総利益と売上総利益率を見ると、Services事業の利益率が高いことが分かります。
これは、プラットフォーム運営のServices事業にあまり原価が発生しないことが要因です。
また、営業費用の内訳も開示されています。研究開発費と販管費の金額を見ると、Appleは販管費と同規模の資金を研究開発費に投資していることが分かります。
以上を踏まえて、Appleの損益計算書を確認します。
製造業であるProduct事業が売り上げの大半を占めているため、売上原価率が高い傾向にあります。
しかし、製造業としては利益率が高くなっています。
これは、製造等の外部委託によって営業費用を抑制していることや、利益率の高いServices事業が大きく貢献していることためです。
最後に、Appleの貸借対照表を確認します。
製造を外部委託しているため、固定資産に占める有形固定資産の割合が少ないことが読み取れます。
一方、研究開発費へ積極的に投資するための資金を借り入れしているため、負債の割合が高くなっています。
Form10-Kの読み方:まとめ
最後にまとめです。
今回は、Form10-Kの読み方について解説しました。Form10-Kは4つのパートで構成されていますが、企業分析で目を通すべき箇所はPart1とPart2です。
決算書を見ることで企業のビジネスモデルを読み解くことができます。
この記事を開きながら、ぜひ他の企業の分析にも挑戦してみてください!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
決算書や企業のビジネスについて少しでも興味を持っていただけましたら幸いです。
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<この分析記事の出典データ>