アパレル企業3社比較!決算書の読み方を解説
#
企業分析2024.4.29
この記事では、企業の儲けの仕組みについてを図解を通じてわかりやすく解説します。
今回は、アパレル企業がテーマです。
アパレル企業がどのように利益を生み出しているかを、数字を使って解説します。
会計クイズ:アパレル業界
今回登場する企業紹介
最初に今回の登場企業の紹介です。
- ファーストリテイリング(小売り)
- しまむら(小売り)
- ZOZO(プラットフォーム)
この3社は代表的なアパレル企業です。
各社ともにアパレルを扱っていますが、それぞれのビジネスモデルには違いがあります。
会計クイズ:問題
アパレル事業を営む「ファーストリテイリング」、「しまむら」、「ZOZO」3社の損益計算書のうち、ユニクロを運営するファーストリテイリングの損益計算書はどれかを考えてみてください。
タップで回答を見ることができます
選択肢①
選択肢②
選択肢③
損益計算書の読み方を1からしっかり学びたい方には、下記の記事もおすすめです。
関連記事
損益計算書とは?決算書の読み方を企業分析のプロがわかりやすく解説
navi.funda.jp/article/profit-and-loss-statement
それでは、正解の発表です。
会計クイズ:正解の発表
正解は選択肢②がファーストリテイリングの損益計算書でした。
アパレルを扱う事業とはいえ、3社のコスト構造は全く異なることがわかります。
ここからは、なぜ3社の数字が大きく異なるのかを、それぞれのビジネスを取り上げながら解説していきます。
また、より詳細なアパレルビジネスに興味がある方は、下記の記事もおすすめです。
アパレル業界のビジネスモデルとは?
まずはアパレル業界の代表的なビジネスモデルについてを解説します。
アパレル業界のビジネスモデルは、大きく2つに分類することができます。
- プラットフォーム型
- リテール型(小売)
プラットフォーム型
プラットフォーム型のアパレルビジネスは、複数のブランドやショップが集約され、それらを一つのプラットフォーム上で販売するビジネスモデルです。ZOZOTOWNは、そのようなプラットフォーム型のアパレルビジネスの代表例です。
リテール型
リテール型のアパレルビジネスは、自社で在庫リスクを負い、自社の保有するチャネル(店舗やECサイト)で商品の大部分を販売するビジネスモデルです。
リテール型には、仕入販売とSPAの2つに分類することができます。
リテール型①仕入販売
仕入販売は、製造業者から商品を仕入れ、それを販売するビジネスモデルです。商品は、製造業者によって生産され、小売業者はそれを販売します。しまむらは、仕入販売のアパレルビジネスの代表例です。
リテール型②SPA
SPAは、自社でデザイン・生産・販売を行うビジネスモデルです。このモデルでは、自社でデザインした商品を生産し、自社の店舗やECサイトで販売します。このモデルでは、安く商品を調達することができることから、低コストで商品を提供することが可能となります。また、独自のブランドを持つことができ、顧客にとっても魅力的な商品を提供できます。
しかし、自社で管理する在庫の範囲が広範になったり、また、工場や物流網を用意する必要があるため、多額の資本が必要となる場合が多いです。
ユニクロを運営するファーストリテイリングは、SPAのアパレルビジネスの代表例です。
アパレル業界のビジネスモデルの整理
プラットフォーム型とリテール型の大きな違いは、自社で在庫を持つか持たないかという点です。
プラットフォーム型の付加価値は、利用者とブランドを集め、両者にとって魅力的な場を提供します。
一方、リテール型は、仕入販売とSPAに分類されます。
仕入販売は、製造業者から商品を仕入れて販売し、SPAは自社でデザイン・生産・販売を行うという違いがあります。
プラットフォーム型の決算書
それでは、最初にプラットフォーム型のZOZOの決算数値を確認していきます。
ZOZOの売上高の内訳
ZOZOの売上高の内訳を見ると、ZOZOTOWN事業が売上の大部分を占めていることが分かります。
ZOZOTOWN事業には、仕入販売モデルと受託販売モデルの2種類があります。
仕入販売モデル
仕入販売モデルとは、その名の通り商品を外部から仕入れて販売するモデルです。
ZOZOは、プラットフォームを運営しつつ、自社で仕入れた商品も販売しています。
仕入販売の収益モデルはシンプルです。単価×数量がそのまま企業の売上高として計上されます。
ZOZOの決算資料には、取扱高と売上高という指標が登場しますが、仕入販売型のカテゴリーでは、取扱高と売上高が近似することも特徴です。
受託販売モデル
受託販売モデルとは、メーカーから預かった商品をZOZOが代わりに販売するモデルです。
外部のメーカーにとって、魅力的な場で自社商品を販売することができます。そして、ZOZOはその見返りとして、外部のメーカーから手数料を受け取ります。
手数料の金額は、商品の販売金額(取扱高)に、手数料率を乗じた金額となり、手数料の金額がZOZOの売上となります。したがって、受託販売型のカテゴリーでは、取扱高と売上高が大きく乖離する傾向があります。
売上原価がほとんど発生しない背景
また、商品を仕入れて販売する仕入販売モデルとは異なり、受託販売モデルは、商品を預かるのみに留まります。
そのため、ZOZOは在庫リスクを負わず、商品を販売しても、商品の原価は発生しないという特徴があります。
このような数字の動きがはっきりとわかる事例を紹介します。
ZOZOTOWN事業は当初仕入販売モデルからスタートし、プラットフォームの魅力が高まるに連れて、徐々に受託販売モデルの比率を上げています。
仕入販売モデルは、在庫リスクを自社で負うため、売上原価の金額が大きくなる傾向にあり、2010年以前のZOZOの決算数値には40%近い売上高原価率が計上されていました。
その後、仕入販売モデルから受託販売モデルへの移行に伴って、売上高原価率が減少していることが下図から読み取れます。このことからも、受託販売モデルはほとんど売上原価が発生しないビジネスであることが読み取れます。
プラットフォーム型の損益計算書
以上を踏まえてZOZOの損益計算書を確認します。
売上原価は受託販売モデルメインであるため小さくなります。
一方、販管費は比較的多くの割合を占めています。
販管費の中身の多くは、受託販売ビジネスに必要となる、物流に関する費用(荷造運搬費等)や販売代行に関する費用(代金回収手数料)です。
このように、売上原価がほとんど発生しない代わりに、プラットフォームサービスの運営に関する費用が多額に発生していることがわかります。
リテール型の決算書
次に、リテール型のアパレルビジネスを運営する2社、SPAモデルのファーストリテイリングと、仕入販売モデルのしまむらについて解説していきます。
リテール型の商流の違い
SPAモデルとは、製造段階から販売までを自社がすべて行うビジネスモデルです。
製造段階から関与することで中間マージンが乗らず低価格で製造することができます。
一方、仕入販売モデルは商品を仕入れて販売するモデルです。
製造から卸売、卸売から小売りに販売する段階でマージンが乗せられてしまうため、仕入額が大きくなりやすい特徴があります。
リテールビジネスの粗利の違い
ファーストリテイリングとしまむらの共通点の1つに、「低価格販売」という特徴があります。
両者は、アパレル業界の中でも、特に単価が安いことで有名です。
単価が安い場合、通常は粗利率(売上総利益率)が小さくなる傾向があります。
しかし、両者の粗利率を比較すると、ファーストリテイリングとしまむらとでは15%近い差が存在することがわかります。
両者の差の原因にはビジネスモデルの違いがあります。
SPAモデルを採用しているファーストリテイリングは中間マージンが乗らないため、安く商品を調達することができるため、低価格販売にも関わらず高い粗利率を維持することができます。
一方、仕入販売モデルを採用しているしまむらは、メーカーから仕入れていることで中間マージンが上乗せされ、ファーストリテイリングと比べると原価率が高くなる傾向にあります。
このように同じ「低価格販売」を採用している2社でも、ビジネスモデルの違いにより粗利率が大きく異なることがわかります。
なお、商品力の強さを表す粗利率(売上高総利益率)について、詳しく解説を読みたい方は、下記の記事がおすすめです。
関連記事
粗利(売上総利益)とは?実際の企業事例を元にわかりやすく解説
navi.funda.jp/article/gross-profit-margin
決算書から読み取るしまむらの強み
粗利率が低いからといって、しまむらのビジネスに欠陥があるわけではありません。
しまむらの強みは、徹底したマニュアル化等によるローコストオペレーションの構築です。
しまむらは、ファーストリテイリングと比べると販管費の比率が小さく表示されます。この背景には、しまむらの経営努力が存在します。しまむらは、店舗運営をマニュアル化、社員教育の徹底を行っています。その結果、無駄を省き最低限のコストでの運営を可能としています。
一方、ファーストリテイリングも、店舗効率を意識した経営を行っていますが、製造から小売まで関与するSPAを採用していることから、資源も多額に必要となります。その結果、販管費の比率はしまむらよりも大きく表示されます。
会計クイズ:まとめ
最後にまとめです。
今回は、アパレル企業というテーマで、各社のビジネスモデルを比較しました。
アパレル企業と言っても、各社のビジネスモデルやコスト構造などが全く違うことが決算数値を見ることによって読み取ることができます。
お付き合いいただきありがとうございました。
決算書や企業のビジネスについて少しでも興味を持っていただけましたら幸いです。
基礎からしっかり学びたい方は、ぜひ学習アプリ「Funda簿記」をご覧ください。
アプリ内で決算書の構成や作り方を学ぶことができます。
決算書の読み方や企業のビジネスモデルを学びたい方は、アプリ「Funda」もぜひ触ってみてください!
1日5分から学ぶことができます。
<この分析記事の出典データ>
クイズに正解した方はぜひTwitterやInstagramで教えて下さい。
「大手町のランダムウォーカー」のアカウントをタグ付けしてくだされば必ず拝見しに行きます。