キャッシュ・フロー計算書とは?読み方をわかりやすく解説
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会計2024.5.8
キャッシュ・フロー計算書とは?
キャッシュ・フロー計算書は、企業の「一定期間のお金の流れ」を表す決算書です。
キャッシュ・フローとは、資金の増加(キャッシュ・インフロー)と資金の減少(キャッシュ・アウトフロー)を意味しています。
その情報は、一定期間においてどれだけの資金が事業活動で稼がれているか、どれだけの資金を調達したのか、といった情報を分析するのに役立ちます。
また、利益が計上されているのにキャッシュが足りない、いわゆる黒字倒産を防ぐためにも有用な情報となります。
まずは簡単な、実際の企業のキャッシュ・フロー計算書の数値を使ったクイズです。
日本を代表する通信事業を営むソフトバンクグループとKDDIのキャッシュ・フロー計算書の比較です。
どちらがソフトバンクグループでしょうか?
(2020年の決算数値を比較しています)
今は全くわからなくても問題ありません。
この記事を最後まで読むと、それぞれの経営戦略の違いがどのようにキャッシュ・フロー計算書に現れるかを理解することができます。クイズの正解は、この記事の後半で解説しますので、ぜひ一緒にキャッシュ・フロー計算書の知識を理解しながら読み進めましょう。
目次
- キャッシュ・フロー計算書とは?
- キャッシュ・フロー計算書の導入の背景
- キャッシュ・フロー計算書におけるキャッシュの意味
- キャッシュ・フロー計算書におけるフローの意味は?
- キャッシュ・フロー計算書が報告する情報
- 財務三表との関係
- キャッシュ・フロー計算書の構成
- 営業活動によるキャッシュ・フロー(営業C/F)とは?
- 投資活動によるキャッシュ・フロー(投資C/F)とは?
- 財務活動によるキャッシュ・フロー(財務C/F)とは?
- キャッシュ・フロー計算書の読み方
- キャッシュ・フロー計算書の読み方①本業の現金稼得能力
- キャッシュ・フロー計算書の読み方②投資の状況
- キャッシュ・フロー計算書の読み方③資金調達の状況
- キャッシュ・フロー計算書の読み方④前期からの現金増減額
- キャッシュ・フロー計算書の企業事例
- ソフトバンクグループのキャッシュ・フロー計算書
- KDDIのキャッシュ・フロー計算書
- キャッシュ・フロー計算書:まとめ
キャッシュ・フロー計算書の導入の背景
キャッシュ・フロー計算書は比較的最近導入された決算書です。
日本に導入されたのは2000年3月期からです。キャッシュ・フロー計算書が導入された背景として下記の2つがあります。
- 海外資金の流入目的
- 損益計算書の欠点を補う目的
海外資金の流入目的
バブル後の日本経済の低迷により、政府は海外からの資金を呼び込もうと日本の金融システムを大幅に見直しました。
その一環で、海外の投資家にとってわかりやすい制度に変更するという趣旨で、会計制度も大幅に見直されました(通称、会計ビックバン)。その中の1つがキャッシュ・フロー計算書の導入です。
損益計算書の欠点を補う目的
また、当時、損益計算書上は黒字にもかかわらず、突然会社が倒産する黒字倒産が社会的な問題となっていました。
会社は赤字が出ただけでは倒産しませんが、支払期限が来たときに払うべき現金が不足していると倒産してしまいます。
そのため、決算書を利用する企業関係者達は、利益の情報のみならず、現金の詳細な動きに関する情報を求めました。
そのような損益計算書の欠点を補う目的で、キャッシュ・フロー計算書が導入されました。
キャッシュ・フロー計算書におけるキャッシュの意味
キャッシュ・フロー計算書の用語の定義についてを解説します。
キャッシュが何を表しているか?フローとはどういう意味なのかを順に説明します。
キャッシュ・フロー計算書を理解する際に「キャッシュ」が何を意味しているのかを知ることが重要です。
一般的に「キャッシュ」と聞くと、手元の現金や金庫に入っている札束、銀行預金などをイメージすると思います。
誤りではありませんが、キャッシュ・フロー計算書上の「キャッシュ」の範囲とは完全に一致しません。
キャッシュ・フロー計算書におけるキャッシュの範囲は、「現金及び現金同等物」となります。それぞれ詳しく解説していきます。
現金とは?
現金とは、手元現金や要求払預金です。
要求払預金とは「預金者の要求に応じて元本をすぐに払い戻すことのできる預金」です。当座預金、普通預金、通知預金が該当します。
現金同等物とは?
現金同等物とは「容易に換金可能であり、かつ、価値の変動についてわずかなリスクしか負わない短期投資のこと」です。 取得日から満期日または償還日までの期間が3カ月以内の短期投資である定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・ペーパーなどが該当します。定期預金は貸借対照表では現金及び預金に含まれますが、コマーシャル・ペーパーなどは有価証券に含まれています。
キャッシュ・フロー計算書におけるフローの意味は?
ここからは、キャッシュ・フロー計算書の「フロー(flow)」が何を意味しているかを詳しく解説します。
フローとストックの概念
「フロー(flow)」とは一定期間を対象に測定される概念です。
フローの対義語として「ストック(Stock)」があります。ストックとは、一定時点で測定される概念です。
フローとストックの事例
イメージしやすい事例を紹介します。
例えば、マッチングアプリや結婚相談所では、男性の評価項目として年収や貯金残高が利用されます。
年収は1年間という期間で測定したフローの概念です。
一方、貯金残高は、一定時点で測定されるストックの概念です。
両者は提供する情報の内容が異なるため、状況に応じて使い分ける必要があります。
キャッシュ・フロー計算書が報告する情報
キャッシュ・フロー計算書が提供する情報は、文字通り、リアルなお金の流れを、3ヶ月や6ヶ月、1年といった、一定の期間で測定した情報となります。
財務三表との関係
フロー情報とストック情報で、財務三表を整理します。
損益計算書とキャッシュ・フロー計算書はフロー情報。
一方、貸借対照表はストック情報となります。
また、損益計算書は、利益の情報を一定期間で測定するのに対して、キャッシュ・フロー計算書はキャッシュの情報を一定期間で測定しています。
利益は会計のルールに基づいて、帳簿上でどれだけ儲かったのかを計算したものであるため、必ずしもリアルなお金の流れを表しません。
従って、キャッシュ・フロー計算書が提供するキャッシュの情報と、損益計算書が提供する利益の情報は、フロー情報という共通点はあるものの、それぞれ異なる情報を提供しています。
この3つの財務三表の違いを理解することがキャッシュ・フロー計算書を理解する上で重要となります。
キャッシュ・フロー計算書の構成
キャッシュ・フロー計算書は会社の活動を3つに大別し、それぞれの活動ごとに、キャッシュが増加したか、または減少したかを表示します。
ここからはキャッシュ・フロー計算書の3つの活動についての概要を説明します。
営業活動によるキャッシュ・フロー(営業C/F)とは?
営業活動によるキャッシュ・フローとは、本業で稼いだキャッシュを意味します。
ここでいう本業とは、仕入、製造、販売のように当期の利益を獲得するための企業活動です。
投資活動によるキャッシュ・フロー(投資C/F)とは?
投資活動によるキャッシュ・フローとは、投資活動に使った、または投資活動で稼いだキャッシュを意味します。
建物や設備の購入、ソフトウェアや商標の購入、投資目的の有価証券の購入など、将来の利益を獲得するための活動を表します。
財務活動によるキャッシュ・フロー(財務C/F)とは?
財務活動によるキャッシュ・フローとは、財務活動に使った、または財務活動で調達したキャッシュを意味します。
事業に必要となる資金を調達するための借入や返済、株主への配当などを表します。
キャッシュ・フロー計算書の読み方
キャッシュ・フロー計算書の読み方を紹介します。非常に分量の多い決算書ですが、重要なポイントだけ確認するだけでも十分意味のある示唆を得ることができます。
キャッシュ・フロー計算書の読み方①本業の現金稼得能力
まずは、本業の成果である営業活動によるキャッシュ・フローを確認します。
営業活動によるキャッシュ・フローは、プラスであることが望ましいです。プラスの場合は、本業の事業活動でキャッシュを生み出していることを意味します。
従って、本業の現金稼得能力を第一に確認することが重要です。
キャッシュ・フロー計算書の読み方②投資の状況
投資活動によるキャッシュ・フローを確認します。
目的としては、企業が投資にどの程度の力を入れているかを判断します。
チェックのポイントとして、投資活動によるキャッシュ・フローの金額が、営業活動によるキャッシュ・フローの金額の範囲で収まっているかどうかを確認します。
仮に本業で稼いだキャッシュ以上の投資をしている場合には、他の活動(例えば財務活動)でキャッシュが担保されているかを確認する必要があります。
キャッシュ・フロー計算書の読み方③資金調達の状況
財務活動によるキャッシュ・フローから資金調達と返済の状況を確認します。
財務活動によるキャッシュ・フローは必ずしもプラスが望ましいとは限りません。多額の借り入れを行なった場合、財務活動によるキャッシュ・フローはプラスとなりますが、その分負債が増加し、財政状態が悪化する場合もあります。
従って、全体とのバランスを意識しながら、資金調達の状況を確認することが重要です。
キャッシュ・フロー計算書の読み方④前期からの現金増減額
最後に、これら①〜③の活動の結果、現金が前期に比べてどの程度増減しているかを確認します。
キャッシュ・フロー計算書の企業事例
それではいよいよ、実際の企業事例でキャッシュ・フロー計算書を見ていきましょう。
まずは簡単な会計クイズに挑戦してみてください。
通信ビジネスを手掛ける、ソフトバンクグループとKDDIのキャッシュ・フロー計算書の比較クイズです。
どちらがソフトバンクグループでしょうか?
タップで回答を見ることができます
選択肢①
選択肢②
正解は選択肢①がソフトバンクグループのキャッシュ・フロー計算書でした。
ソフトバンクグループのキャッシュ・フロー計算書
ソフトバンクグループは日本でも有数の非常に投資活動に活発な企業です。
有形固定資産や無形固定資産への投資はもちろん、近年はベンチャー企業への投資も活発です。
従って、投資活動によるキャッシュ・フローから約4兆円のキャッシュが流出しています。
当然投資を行うためには財源が必要です。
ソフトバンクグループの投資の財源は、本業から稼いだキャッシュのみならず、外部から追加で資金の調達を行っています。その影響が財務活動によるキャッシュ・フローに現れます。
直近決算では約8兆円の有利子負債での借入を行っています。
ソフトバンクグループの財政状態は貸借対照表の負債項目にも反映されます。
貸借対照表を見てみると、負債の割合が非常に多いことがわかります。
その内訳を見ると、有利子負債だけで約13兆円もの金額になります。
このように外部から調達をして投資を行うというソフトバンクグループの特徴が決算書から読み取れます。
貸借対照表の読み方について、詳しく学びたい方は、下記の記事もお勧めです。
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KDDIのキャッシュ・フロー計算書
KDDIも、日本を代表する通信事業を営んでいる会社です。
通信事業の特徴としては、一度契約したら毎月継続して安定的に収益の入るストックビジネスであるため、非常に収益率が高いという特徴があります。
KDDIの損益計算書を見てみても分かる通り、5兆円近い売上規模ながら営業利益率は20%近くあります。
稼ぎ出す営業利益は1兆円を上回るため非常に収益性の高い企業です。
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このように本業で収益性が高い事業を営んでいる場合、稼ぎ出すキャッシュも多額となります。
KDDIの営業活動によるキャッシュ・フローを確認すると、1兆円近いキャッシュを本業で生み出しています。
ソフトバンクグループとの違いは投資スタンスにあります。
KDDIは自社で稼いだキャッシュの範囲内で投資を行っているため、投資活動によるキャッシュ・フローの金額は、営業活動によるキャッシュ・フローの範囲で留まります。
そして、本業で稼いだキャッシュの一部を投資に回し、残った部分は負債の返済や株主還元に回していることがわかります。従って、KDDIは非常に健全なキャッシュ・フロー計算書の形をしています。
このように、通信事業を展開する2社ですが、投資スタンスが全く異なるため、その結果がキャッシュフロー計算書に反映されるという事例でした。
キャッシュ・フロー計算書:まとめ
以上、キャッシュ・フロー計算書のまとめとなります。
情報量の多い決算書ですが、要点を絞って読むことで、短い時間で示唆のある情報を得ることが可能となります。
この記事を開きながら、ぜひ実際の企業のキャッシュ・フロー計算書にも挑戦してみてください。
また、よりしっかり会計・簿記の知識を身に付けたい方は、ぜひ学習アプリ「Funda簿記」も触ってみてくださいね。